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仙台地方裁判所 昭和42年(ワ)347号 判決

原告

福島禎蔵

代理人

橘川光子

被告

青木商事株式会社

代理人

三島卓郎

主文

被告は原告に対し金五五万四、〇二八円及びこれに対する昭和四二年一一月一六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

本判決は原告勝訴の部分に限り原告において金一五万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告「被告は原告に対し金一五二万二、六九二円及びこれに対する昭和四二年一一月一六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに保証を条件とする仮執行の宣言。

二、被告「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、原告は昭和三六年一月一〇日仙台市より都市計画事業にもとずいて、原告所有の仙台市南光院丁五番の二宅地1,047.41平方メートル(以下従前の土地という)の換地予定地として別紙目録(一)記載の土地の他二筆の土地を指定され、昭和三六年一月二八日その指定の効力が生じた。

二、被告は昭和三六年二月一日以前より昭和四二年三月末日まで別紙目録(一)の土地の内同(二)の部分49.586平方メートル(以下本件土地という)を占有し、故意又は少なくとも過失により原告の本件土地の使用収益をさまたげ、賃料相当額の損害を与えている。

三、右期間における本件土地の賃料相当額は次のとおりである。

1昭和三六年一ヶ月金一万二、二七六円

(3.30平方メートル当り金一、〇三三円)

2昭和三七年〃 金一万七、八九五円

(  〃 金一、一九三円)

3昭和三八年〃 金二万〇、四四五円

(  〃 金一、三六三円)

4昭和三九年〃 金二万三、〇五五円

(  〃 金一、五三七円)

5昭和四〇年〃 金二万四、七、二〇円

(  〃 金一、六四八円)

6昭和四一年〃 金二万六、〇二五円

(  〃 金一、七三〇円)

7昭和四二年〃 金二万八、四八五円

(  〃 金一、八九九円)

四、よつて、原告は被告に対し本件土地に対する不法占有にもとずく損害賠償請求として、昭和三六年二月一日以降昭和四二年三月末日まで前項記載の割合による賃料相当の損害金合計一五二万二、六九二円及びこれに対する昭和四二年一一月一六日以降完済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一、請求の原因第一項は認める。

二、同第二項中、故意又は少なくとも過失にもとずき原告の本件土地に対する使用収益をさまたげ、賃料相当額の損害を与えたという点は争うが、その余の事実は認める。

三、同第三項、四項は争う。

(抗弁)

一、原告は、昭和三四年四月頃より、被告が本件土地を占有、使用している事実を知つており、従つて同年同月頃より損害の発生並びに加害者を知つていたものであるから、本件損害金のうち昭和三九年五月一七日以前に発生した部分はおそくとも本訴提起日(昭和四二年五月一八日)前に時効によつて消滅した。

二、原告は本訴において当初、損害金として、坪(3.30平方メートル)当り金四〇〇円の割合による金額を求めていたところ、昭和四二年一一月一五日の本件第八回準備手続期日において右の請求を拡張して請求の原因第三項記載の金額を求めるに至つたものである。従つて昭和三九年五月一八日以降同年一一月一四日までは一ヶ月坪当り金四〇〇円の割合による損害金を超える部分は時効により消滅したものというべきである。

(抗弁に対する答弁)

抗弁第二項につき原告が被告主張のように請求を拡張したことは認める。

(再抗弁)

一、被告は、原告請求の損害金支払の義務あることを認め、その減額ないしは本件土地に存在する被告所有の建物の代物弁済の申出をしてきたものであるから、被告は時効の利益を放棄したものである。

二、原告は昭和四一年九月二八日到達の内容証明郵便をもつて被告に対し本件土地の明渡し等を催告し、同年一〇月二七日被告を相手方として仙台簡易裁判所に対し、本件土地の明渡及び損害金の支払を求める調停の申立を行つたが不調に終つたため、昭和四二年五月一八日本訴を提起したものである。従つて右内容証明郵便到達の日に時効は中断された。

(再抗弁に対する答弁)

一、再抗弁第一項は争う。

二、同第二項につき、原告主張の内容証明郵便が主張のころ被告に到達したこと、主張のような調停申立があり、不調に終つたことは認めるが、(1)前記内容証明郵便には損害金の請求の記載がなく、(2)調停申立書には、「損害金の支払を定める」とあるだけで債権額を明示していないので、いずれも本件損害金債権の時効を中断する効力を有しない。

第三、証拠〈略〉

理由

第一、損害の発生について

一、請求原因第一項の事実、および同第二項のうち被告が昭和三六年二月一日以前より、昭和四二年三月末日まで本件土地を占有していた事実は当事者間に争いがない。

二、被告は故意又は少なくとも過失により原告の本件土地の使用収益をさまたげ、賃料相当額の損害を与えているとの事実を争うのでその点につき判断する。

被告が本件土地を占有するに至つた経緯をみると、〈証拠〉によれば、被告は昭和三四年四月頃、本件土地の隣接地にビルを建築する際、本件土地にそのための建築事務所を建てる目的で、訴外佐藤国雄より右土地を賃借したものであることが認められる。

しかしながら、一方、〈証拠〉によれば、仙台地方裁判所において、原告所有の前記従前の土地に対し右訴外人が賃借権を有しないことが確認され、右判決は昭和三〇年一一月一日に確定した事実が認められるのであり、かつ、〈証拠〉によれば、被告が本件土地を占有し始めてから半年か一年後(従つて昭和三四年一〇月から昭和三五年の四月までの間)に本件土地につき原告と右訴外人との間で争いがあつたことを知つたこと、そして、本件土地が原告の所有であることを知つてから、被告の社員が「お盆」に原告のところに挨拶に行つたこと、また、被告は昭和三六年一二月に原告に対し「お歳暮品」を送り、同月二九日に原告より被告へ右品物を返戻されたことを認めることができる。右事実をくつがえすに足りる証拠はない。

以上の認定事実を総合して判断すると、被告は少なくとも昭和三六年二月一日以降は、原告の本件土地の使用収益を故意又は少なくとも過失にもとずきさまたげていたものというべきであり、したがつて同日以降右土地を占有していた期間は、原告に対し賃料相当額の損害金を支払う義務があるものと解するのが相当である。

第二、消滅時効の抗弁について

一、(昭和三九年五月一七日以前は時効消滅したとの点)

被告主張の抗弁事実のうち、原告は昭和三四年四月頃より、被告が本件土地を占有、使用している事実を知つており従つて同年同月頃より損害の発生ならびに加害者を知つていたことは原告において明らかに争わないから自白したものとみなされ、右事実によれば、本訴提起日の三年前である昭和三九年五月一七日以前に発生した損害金は時効により消滅したものというべきである。よつて被告の主張は理由がある。

二、(拡張部分の点)

原告が本訴提起時においては損害金として坪(3.30平方メートル)当り金四〇〇円の割合による金額を求めていたところ、昭和四二年一一月一五日の本件第八回準備手続期日において右の請求を拡張して請求の原因第三項記載の金額を求めるに至つたことは、本件記録上明らかである。被告は、これにより右拡張部分のうち昭和三九年五月一八日以降同年一一月一四日までの分は時効により消滅したと主張する。

しかしながら、本件審理の経過に徴すれば、原告の訴は、本件不法行為にもとずく損害金の全部を請求する趣旨でこれを提起したものと認められるので、このような場合には訴提起により、不法行為により生じた損害賠償請求権の全体について(本件においては昭和三九年五月一八日以降の全部分)時効中断の効力を生ずると解すべきである。けだし、不法行為の結果発生すべき損害額というものは当事者としても証拠調べの結果によつてはじめてその債権額を確知できる場合が通常であるため、審理の経過によつて請求を拡張する場合のあることは当然であり、したがつて、訴状において原告がとくに一部請求であることを明示していないかぎり、原告は自己の有する損害賠償請求権の全てを求める趣旨を表示したものと解されるのであり、したがつて後に請求を拡張した部分についても訴提起の時既に「裁判上の請求」がされたものと解するのが相当である。よつて被告の主張は採用しない。

第三、再抗弁について

一、(時効利益の放棄の点)

原告は、「被告は原告主張の損害金支払の義務あることを認め、その減額ないしは本件土地に存在する被告所有の建物による代物弁済の申出をして来たのであるから、被告は時効の利益を放棄したものである」と主張するが、右事実を認めるに足る証拠はなく、従つて右主張は認められない。

二、時効中断の点

原告主張の日時に被告が原告から本件土地の明渡を内容証明郵便にて催告されたこと、原告主張の日時に仙台簡易裁判所に対し原告から被告を相手方として本件土地の明渡及び損害金の支払を求める調停の申立がなされ、不調に終つたことは当事者間に争いなく、又本件記録に徴すれば原告主張の日時に本件訴が提起されたことは明らかである。

しかし、右内容証明郵便には、損害金の請求をなした記載がなく、また、原告において右調停不調通知の日から民事調停法一九条所定の期間内に本訴提起をしたとの主張立証がない以上原告の主張は理由がない。

第四、損害額

したがつて原告は被告に対し、昭和三九年五月一八日以降昭和四二年三月末日まで賃料相当額の損害金を請求できるのであるが、賃料相当額の点につき争いがあるので判断する。

鑑定人佐藤栄一の鑑定結果によれば、本件土地につき普通一般の建物を目的とする場合(条件A)の賃料は次のとおりである。(鑑定書によれば一時使用の場合―条件B―の賃料も鑑定されているが、不法占有の場合、加害者がいかなる目的で現実に使用したかにより損害額を決定すべきではなく、被害者側において右不法占有がなければ通常いかなる使用収益ができたかを基礎にして損害額を算出すべきであるから条件Bの方は採用しない。)

昭和三九年五月 金一万四、七九〇円

昭和四〇年五月 金一万五、八五〇円

昭和四一年五月 金一万六、六〇五円

昭和四二年三月 金一万八、一二〇円

鑑定書の記載によれば、右各金額の算出根拠および算出経過は相当と認められるので本件においても右鑑定における金額を賃料相当額の算定の基礎として採用することとする。

従つて被告は原告に対し、昭和三六年五月一八日より昭和四二年三月末日までの賃料相当額の損害金として、右鑑定価額を基礎として算出した合計五五万四、〇二八円及びこれに対する昭和四二年一一月一六日以降完済に至るまで民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各々適用し主文のとおり判決する。 (三浦克己 佐藤貞二 奥山興悦)

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